今日は、社会問題となっているネットの誹謗中傷について語ります。
最近になって2冊の本を読みました。
この2冊、両方とも面白いのでぜひ読んでみて欲しいです。
この2冊のテーマは、ネット社会の弊害として挙げられるキャンセルカルチャーやSNSでの誹謗中傷について書かれています。
昔はネットは楽しいところであり、学びや誰も知らない裏技が落ちてたりもしました。
しかし、今は商用化が進み、また、誰もが使えるようになって以降、決してためになるコンテンツばかりではなくなったのも事実です。
今日はこの2冊の本に書かれた内容を中心に、ネット社会の闇についてまとめていきたいと思います。
橘玲著「世界はなぜ地獄になるのか」の問題提起
橘玲著の世界はなぜ地獄になるのかのメインテーマはキャンセルカルチャーです。
キャンセルカルチャーとは…
芸能人や政治家といった著名人、また一般の個人を対象に、過去の犯罪や不祥事、不適切な言動とその記録を掘り起こし、大衆に拡散して炎上を誘って社会的地位を失わせる運動や、それを良しとする風潮を指す。
WIKIPEDIAより引用
橘玲著の世界はなぜ地獄になるのかの中で取り上げられたのは以下の事例です。
キャンセルカルチャーの事例
- 小山田圭吾(東京五輪演出チームから離脱)
- 会田誠の作画「犬」
- パク・ヨンミ(脱北者)
- K・ローリング(ハリーポッターの筆者)
他にも、あいちトリエンナーレの表現の不自由展やNEWS PICKSの品川駅構内の広告、ジャニーズの問題まで幅広く取り上げられています。
キャンセルカルチャーの問題点
キャンセルカルチャーの問題点は、たったひとつのミスや失言が大きく取り上げられ、その人に対する誹謗中傷、人格的な攻撃につながり、結果、社会的な地位や発言力を奪ったり、場合によっては人の命まで落とすことになる点です。
”でも、過去の失言や誤った行動のレベルによるよね”
そう思う人もいるかもしれませんが、実際にそうとは言い切れない現実があります。
大事なことはこの3つのことです。
拡散された内容が事実と異なる場合があること
例えば、先の小山田圭吾氏の問題。過去にいじめや障がい者への暴力が取り上げられて東京五輪演出チームから身を引くことになった。
しかし、本書によれば、小山田氏は直接いじめや障がい者暴力に加担した経験はなく、雑誌編集者の意図的な編集やアーティストとしての注目度を上げるために、それらしき風に記事として出回ってしまったとされる。
過去の言動や行動が今明るみに出ること
ジャニー喜多川氏の性加害者問題については、業界では周知の事実であり、また、ジャニーズファンであれば、それと思しきことはよく知られた話でもある。
このことに関しては2003年の東京高等裁判所でセクハラがあったとの判決が下され、記事を書いた文藝春秋社側の勝訴となった(後に最高裁で上告棄却で判決は確定)
当時はメディアへの注目度は低かったが、昨今となって再度マスメディアに取り上げられるようになった。
一部の人間によって拡散される可能性があること
その人自身の言動や行動に対する批判は、ときに芸能人の不倫やマスメディアへの対応の悪さなど、大半の人にとっては興味がないことであっても、一部の人の「社会正義」や「不謹慎・不愉快」といった理由の書き込みが多くの人を巻き込み、大炎上につながる可能性がある。
これは政治的な意図をもった炎上行為も同様である。
つまり、「マイノリティ(少数派)がマジョリティ(多数派)を制圧する」ことになるのである。
どこに地雷があるかが分からない
このように考えると、過去すでに清算された事実や捻じ曲げられた解釈を突然持ち出されて問題が一部の人によって意図的に表面化されてしまうのです。
それは時に政治的な意図や有名人だけではなく、たまたま情報発信した一般人も同様です。
情報発信した内容がSNSやメディアに面白おかしく取り上げられ、それは時に事実と異なる形で拡散されて炎上につながる可能性があります。
普段どおり、道を歩いていたら知らない人からバットで頭をぶん殴られる、そんな理不尽さがネットの世界では当たり前に起こりうるのです。
山口真一著「正義を振りかざす「極端な人」の正体」の問題提起
なぜ、SNSで炎上が起きるのか、なぜ人はネットで罵倒したり攻撃したするのか?
そんな社会問題を取り上げたのが、山口真一著の正義を振りかざす「極端な人」の正体です。
極端な人とは
この本では、ネットで人を罵倒したり攻撃したりする書き込みを行う人を「極端な人」と呼んでいます。
有名人の不倫とか一般人の非倫理的な行動(最近では回転ずしチェーン店での醤油ペロペロ少年とか)に対して、「どうしょうもないな」とあきれながらも、個人攻撃をしたり、誹謗中傷をネットで書き込むところまで実行する人はそんなに多くないのです。
しかし、そんな一部の極端な人が導線となり、ネット上で大炎上を引き起こすことになるのです。
この極端な人は、暇な若者よりも、高齢者や会社員の係長以上の肩書をもった人に多いと聞きます。
なぜ誹謗中傷は繰り返されるのか
本書によれば、社会正義や道徳倫理を盾に誹謗中傷を繰り返すことが多いとされます。
社会正義の名のもとに他人に制裁を加えることに快感を感じることを「正義中毒」といいます。この正義中毒から抜け出せなくなる人も多く存在すると言います。
しかし、本当は社会正義という名目のもと、その人自身の人生に対する不満、日常生活の悩みや苦悩を解消させるための行動であるケースが多いのです。
そしてこのことの問題点は、書き込みをしている本人にその自覚がないという点です。まさに「気が付いたら自分が加害者だった」というわけです。
また、内田舞著のソーシャルジャスティスには、人類の進化の過程の中で生まれてきた承認欲求がエスカレートし、いいねが欲しいために過激な表現がSNS上に並ぶ現象が起こりうる、とされます。
炎上のメカニズム
この本の興味深い点は、炎上のメカニズムについて時系列で分析している点です。
とあるTwitter(現X)のツイートが炎上するにつながるまでの推移をみると、
- 「いいね」が22しかつかなかったツイートがテレビに取り上げられる
- そのメディアを引用してさらに拡散される
- まとめサイトやキュレーションサイトでさらに拡散される
まさにネットとテレビが相乗効果的に炎上を演出することになったとしています。
テレビもキュレーションサイトも、人に見られてなんぼの業界。内容の成否は二の次として面白おかしく取り上げられることになるのです。
こんな世の中をどう生きていくのか
ネットはそもそも世界中をつなぐ重要なプラットフォームであり、SNSは多くの人とコミュニケーションが取れる便利なツールでした。
しかし、「ITの進展により、私たちの生活は楽になるどころかむしろ忙しさは増している」というように、自由にものも言えないネットの世界では閉鎖的な社会を助長する逆現象が起きてしまうのです。
今となっては日常生活と切り離せないネット世界。どうやって私たちは自分の身を守るべきなのでしょうか。
政治的な議論をネットに書き込まない
Twitterやヤフコメなどを見ると、一方的で見誤った内容も散見されます。
でも、ネットの世界では…
- 自分の言うことは絶対に正しい
- 相手の言うことに配慮しない、理解しようとしない
- 論破し、言い負かすことだけを考える人が多い
山口真一著の正義を振りかざす「極端な人」の正体ではこのように分析しており、そもそも「建設的な議論として成り立つはずがない」のです。
それならば、自分と意見を異にするネット上の書き込みと議論するのは時間の無駄。
仮に、ネットで議論を吹っ掛けられた場合においても、無視したり、ブロック・ミュートするなどの対応を取ることです。
嫌な人間は相手にしない―これはリアルな日常生活と同様の対応が適切なようです。
誹謗中傷は書き込まない
誹謗中傷や個人攻撃などネットに書き込むことは行わないことです。
ネットは匿名ですが、最近は情報開示請求のハードルも下がってきています。
誹謗中傷があった場合は、プロバイダ事業者がIPアドレスを開示するようになり、IPアドレスをもとに書き込みを行った人間が特定されることになります。
・匿名ではなくても書き込める内容かどうか
・直接相手に会って話しできるないようかどうか
これは子どものネットリテラシーを向上させるためによく言われる話ですが、我々大人たちも同様に教訓として頭に刻み込む必要があります。
ネットリテラシーを上げる
私たちユーザ自身でネットリテラシーを上げることが重要です。
Twitterでも提供されているブロックやミュートなどの機能を使って、見たくない情報から自分を守ることが大事です。
また、私たちが目にするネットの世界は、Googleやマイクロソフトなどのプラットフォーマーのアルゴリズムで操作されているものです。
自分の趣味嗜好のコンテンツやアプリケーションに狭い世界にとどまることなく、視野を広げて、ネットの世界を回遊する必要があります。
もっと言えば、流れてきた情報に偏りがないか、その情報が真実なのか?辛らつな見出しに振り回されることはなく、情報の正確性を探求していく好奇心や知識も重要です。
今やフェイクニュースや意図的な世論形成にもネットが悪用される世の中です。
海外の事例で言えば、米国の大統領選、英国のEU離脱問題などなど、いわゆるデジタルポピュリズムも社会問題化しています。
ネット社会で生き抜くために
ということで今日は、ネット社会で生き抜くための方法を、2冊の本を中心に紹介しながらまとめてみました。
インターネットはとても便利なものですが、使い方を誤ると思わぬ事故に遭遇する場合もあります。
そのために重要なのはネットと上手に付き合い方を知ることが重要です。
そのためにも、今回ご紹介した2冊はとても有意義な良書です。
ぜひ一度読んでみることをおすすめします。
2冊以外の参考文献
オリバー・バークマン 限りある時間の使い方
ロバート・I・サットン スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術
鈴木祐 MU(最高の状態)
福田直子 デジタルポピュリズム
内田舞 ソーシャルジャスティス